RP:3-1:他者をより意識する空間を作る2つの方法

3−1:他者をより意識する空間を作る2つの方法

オープンライトは人の振る舞いを光を使って変化させ、都市空間で人が、皆が顔見知 りになるようにする。都市空間で誰かと顔見知りになるのは、どういう場合だろうか? 私たちが例えば、道端の露店でいつもパンを売っているおばさんと顔見知りになる。こ の場合は、売る人と買う人の間の関係があり、さらに、おそらくはパンを買わないとき にもこの人物を見かけるので顔を覚えていたり、あるいは挨拶をする程度の関係がある から顔見知りと言えるだろう。では、パンを買う側の私たち同士の間に顔見知りになる 機会はあるだろうか?パンを買う際に前に並ぶ人がいつも同じであれば、繰り返し出会 う中でその人物を覚えられるかもしれない。カフェでいつも同じ時間に同じ人物が隣に 座っていたら、気になるだろうし、相手にとってもあなたは気になる人物だ。その人物 が奇抜なファッションを見に纏っていたらどうだろうか。たった一度出会っただけでも、 その人の姿をしばらく覚えているだろう。このように、理由、機会、または印象の強さ が、他者と顔見知りになる為に必要な条件ではないだろうか。オープンライトの概念は、 このような条件を光による二つの演出、インタラクションの方法によって作り出し、ま たは強化して、顔見知りになる可能性を高くするものである。 方法の一つ目は、ファッションが相手に与える印象にヒントを得ている。顔見知りの 状態を作り出すために、都市照明を用いてお互いを印象深く見せる、見る状態を自己表 現の欲求の先に作り出す。方法の2つ目は、パンを売る人物とあなたが顔見知りになる 関係、2章で説明した、光や炎と都市空間での祝祭の例、人々が共有の体験をする際に 光や炎がその演出をする例にヒントを得ている。複数の人物の間に何らかの役割がある 状況で、その役割をお互いが演じる中で顔見知りという関係が生まれるプロセスである。 このプロセスを参考に、お互いが関係する機会と役割がある状況で、発生しうるインタ ラクションを、より発生しやすく、よりお互いを認知しやすく演出する工夫を光によって行うのが2つ目の方法である。以下にそれぞれの方法、そのゴール、検証の基準を詳 しく説明する。

方法1:自分を照らす光による自己表現の促進

この方法では、光の援用で、相互の視覚的な印象、認知を、より印象深く、覚えやす くする。顔見知りが、顔と姿を知っている、ということを示すものであれば、この方法 が目指すものは、顔だけでなく、”光見知り”になる状態を目指し、オープンライトの利用 者は、顔、姿、光の総体で相手を認知する。または、自分を相手に認知してもらう。こ の方法では、利用者は自分で照明を手に持っていなくとも、自分が望む光の種類(色や パターン)で、その場所にいる間、自分を演出してもらうことができる。自分に、自分 で考えたスポットライトがあたっているような状態である。この演出は、オープンライ トが設置された都市空間にいる誰もが利用できる前提なので、あなただけでなく、ほか にもこの演出を浴びている人がいる可能性がある。この方法の仮説は、派手なファッシ ョンを来た人々がより印象深く認知されるように、光を浴びて演出されている人物は、 そうでない人物より印象深く認知されるだろうというものだ。複数の人物が演出されれ ば、お互いに意識し合うことによって、彼らの間に顔見知りになる可能性が高まる。 あなたがこの演出を利用していないときに、誰かが演出されている様子をみて深い印 象を得たとしたら、それはまだ一方的な認知にすぎない。この方法は、繰り返し同じメ ンバーがその場所を訪ねることで、お互いに見たことがある、という状態を作りうる。 このような演出をあえて利用するための動機付けとして、この方法では、ファッション、 香水、身のこなしのような、都市空間における身体的な自己表現の延長線上にあるもの として都市照明をデザインし、自己表現の欲求を動機として受け止められるようにする。 この動機付けは、デザイン上の課題を生む。本来、都市照明は都市空間の一部として 動かず、都市生活者の身体のありかたとの関連がなく、身体に身に着くように照射され るものではない。ファッションや香水のように身体の空間への延長として感じられるよ うな都市照明と利用者の間のインタラクションの設計が必須になる。この設計の詳細は、 この章の後半で説明する。

方法2:他者を照らす光による相互のアクションの促進

この方法は、光を操作することによって、キャッチボールのように他者との間で行為 のやりとりを出来る環境を提供し、複数の人物同士の間のインタラクションを期待する ものだ。重要な点は複数の人物が共有できる体験の機会を提供すること。想定しているのは Social Capital 理論でいう Bridging の体験で、複数の人物達の間に必ずしも第三者 の紹介がないにも関わらず、しかし一緒に何かをしている状態を指す。そういう機会の 例として、路上パフォーマーやダンスグループと、彼(ら)を応援する観客の例、ある 種のお祭りでの水や泥のかけあい、キャンドルサービスなどでの炎の他者との間の受け 渡し、アメリカのマルディグラの祝祭での、他者との間でネックレスを交換したり、渡 すインタラクションなどがあるだろう。方法2が顔見知りを作り出すためのアプローチ は、このような祝祭が起こっている、または起こりそうな状態に対して、光によるやり とりによってさらに盛り上げうる機会を提供し、他者同士のインタラクションが起こり 易くするものだ。

ここでわざわざ祝祭の参加者が光を使い始めるためには、その祝祭あるいはパフォー マンスの中で、どのように人物の間の気持ちが動いているのか、また祝祭を光が盛り上 げうるタイミングなどを計算したうえで、そこに光があって良かったと思えるようにイ ンタラクションとその提供方法がデザインされなくてはならない。この部分のデザイン に失敗すると、光は使われない。具体的には、路上パフォーマーと応援する観客を支援 するとした場合、自分ではなく、パフォーマーを照らし出し、その応援にパフォーマー が応える、というインタラクションを観客が応援したいときに操作できるように実現す るということになる。観客は、パフォーマンスに感動する中で、光が提供されない状態 でも、声援を送ったりしている場合がある。この、声援を送る気持ちを光でうまく掬い 上げるようなデザインが重要になる。

この方法では、方法1で説明したような、都市照明が自分を照らし出すという基本の 設計に変更を加える必要がある。光が必ずしも操作する人物を照らすわけではないから である。誰を、いつ、どのように照らすのか、という操作が直感的にでき、自分が、相 手を照らし出せたのだという実感が得られる必要があるだろう。さらに、照らし出され た相手が、誰によって照らし出されたのかを理解できると、1回のインタラクションで 相互に認知する関係を構築できる可能性が出現する。この設計の詳細は、この章の後半 で説明する。この方法2のデザインの成功は、どのように検証できるだろうか。単純に、 その相手と何かをした、という意識を持てるかどうかが基準になる。さらにその詳細を いえば、まず、相手とのインタラクションがあるか、その結果、相手のことを覚えてい るか、相手のことを、インタラクションの経験とともに覚えているか、がデザイン成功 かどうかの基準である。

方法論のまとめ

自分を照らすことで他者との関係を築く方法1、他者を照らすことで自分との関係を 築く方法2。この2つの方法が、オープンライトの概念である。ここから3章の残りの 部分では、それぞれの方法の有効性を確かめるため、概念に基づいたプロトタイプの設 計を具体的な場所、状況をもとに行い、シナリオによって想定するインタラクションの 詳細を示す。