Mch31st2013_KMD_PhD_ResearchProposal_Fujimura
Open Light:人々を繋ぐエンターテイメントとし ての都市照明
PhD Research Proposal of Design category
Keio Media Design 博士課程4年 藤村憲之(ふじむら のりゆき) nori_fujimura@me.com
2013年3月27日
1: イントロダクション
現代の都市では、他者を意識しない空間が作り続けられている。本研究のゴールは、この空間を他者を意識する空間に作り変える事にある。その結果得られるものは、誰もが顔見知りになる空間であり、それは心理的、社会的に安全で、感情的に質の高い都市空間になる。作り替える方法は、自立分散的にコントロールできる都市照明を使い、都市空間の利用者の自己表現の機会を促し、また、利用者同士の相互のアクションを促す、オープンライトと名付ける概念(コンセプト)による都市照明によるもので、既存の都市空間に付加され、都市機能の一部として実現される。本研究では、この概念によるプロトタイプを制作し、他者を意識する空間を作れたかどうか、その効果を検証する。
現代の都市空間がもつ課題:他者を意識しない空間
近代都市計画は空間資源の最適化に特化したあまり、人と人の関係(コミュニティ)を 社会の資産(Social Capital)としてみなす仕組みが壊れてしまった。都市空間は、機能的 に整理されたデザインが進むほどに便利になり、視覚的に美しくなる一方で、使う人の 力と自由が弱まり、その結果、偶然の出会いや、場所が醸成するコミュニティの力が弱 まるというジレンマに常にさらわれている。このことは既に 1960 年代から検証され、 批判されてきた(Jacobs,1961; Whyte,1980)。個人の目的達成のための合理的な空間構 成を実現する近代の都市空間デザインは、他者を意識しない空間を生み出し続けている。
例えばカフェのことを考える。多くの人が訪ねる公共空間でありながら、私たちは隣のテーブルの客は誰なのか、その人が何を飲みにきたのかを知らないし、興味すらもたない。私はこのような都市空間を他者を意識しない空間、と呼ぶ。他者を意識しない、とは、同じ空間にいる複数の人々が、お互いのことを意識せず、心理的、物理的に距離をとっている状態のことである。彼らは同じ空間にいるにもかかわらず、互いの顔すら知らない。
このような他者を意識しない空間が失っているものは何だろうか。Putnum(2001)が 言っているように、お互いを知らない空間での都市生活は、心理的、社会的な安全性を 欠く。そこで何か出来事が発生し、他者とのやりとり、共同作業が必要になったときに、 常に初対面の他者として向き合うことから始めなくてはならないこのような空間は、言ってみれば感情的な質に乏しい。
他者を意識しない都市空間の具体的な例をあげると、たとえば通勤時の駅がある。毎 日同じ時間に同じ場所をあるグループの人々が通過するにもかかわらず、お互いを知っ ている人は、そのなかのほんの一部だろう。新興住宅地は、やがてそこにコミュニティ が生まれてゆくことを前提にデザインされているが、その初期においては当然、住民は 皆、お互いのことを知らない。そして、住民が流動してゆくなかで、新たにやって来た 住民は時間をかけて隣人たちを知るか、あるいは殆ど関わりを持たないまま生活してい る。カフェは、3rd Place(Oldenberg,1989)と呼ばれ、その地域のコミュニティの重要な 要素と言われながらも、実際にはその実態は通勤時の駅前と本質的には変わらない。 個々の客、またはグループたちが、お互いに接点がないままに集っている。このように、 他者を意識しない空間は、私たちの身の回りに普通に存在している。
研究のゴール:他者を意識する空間に変える
本研究の目的は、このような他者を意識しない空間を、都市空間のデザインによって他 者を意識する空間に変えることである。同じ空間にいながら顔すら知らなかった人々が、 本研究が提供するオープンライトの働きによって、顔見知りになる。これが本研究の目 指すゴールだ。オープンライト概念による都市空間のデザインについてはその詳細を3 章で述べる。
他者を意識する、とは、少なくとも見知った他人である状態のことを指す。お互いにき ちんと紹介し合ったことは無く、言葉を交わしたことも無いが、しかし既にお互いのこ とを見たことがあり、顔見知りといえる状態である。例えばバスの停留所で毎朝一緒に なる他者の中に、顔、姿、雰囲気を覚えている相手がいないだろうか?そのような相手 がいれば、それは顔見知りであり、見知った他人であるといえる。本研究のゴールは、 このような見知った他人の関係を積極的に生み出してゆくような都市空間の設計である。
他者を意識しない空間が、本研究が提案する都市空間デザインによって他者を意識する 空間になると、何が得られるだろうか、他者を意識することで生まれるものが、Social Capital(社会資産)だ。Putnum(2001)の定義は、社会ネットワークの中で生まれる 関係の価値であり、互恵性(Reciprocity)のある関係のもと、共通性のある人々を束ね (Bonding)、多様な人々を橋渡し(Bridging)するものだが、他者を意識する空間では特に、 Bridging が発生する。それがもたらすものは、心理的、社会的な安全性、そして、空間 の感情的な質の向上である。より具体的に、他者を意識する空間のイメージを示すと、 以下のようなものになる。駅では、毎朝挨拶こそしなくても、そこで毎日すれ違うメン バーは、互いに顔見知りになっている。新興住宅地では、新たに移住してきたメンバー が孤立することなく、他の居住者とお互いに接するきっかけを容易にもつことができる。 カフェでは、個々の客が自分の時間を楽しみながらも、しかし他の客との接点がある。本研究では、このように他者を意識しない空間を意識する空間に変え、互いに顔すら知らなかった人々を、見知った他人に、つまり、顔見知りにする都市空間のデザインを提案する。